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囚われの姫君と偽りの騎士 [ジュリア・レイサム]

SHALOCKMEMO488
囚われの姫君と偽りの騎士 Thrill of the Knight 2007」
ジュリア・レイサム Julia Latham julialatham.com 平山 容





ジュリア・レイサムの本邦初訳ヒストリカル・ロマンスです。ジュリアは本書のような中世ロマンスを描くときはジュリア・レイサム名義で,ヴィクトリア朝ロマンスを描くときは,Gayle Callen ( gaylecallen.com ) 名義でと,二つのネームを使い分けているそうです。しかも,ウェブ・ページもレイサム名義とカレン名義のふたつのサイトを立ち上げ,完全に別人格で(ちなみに,二つのサイトの自身の顔写真でも背景や髪形を変えるなどの工夫をしているようです)運営しています。原書では背中を見せてたくましい男性の膝の上に乗っているシルクの下着姿の女性がセクシーで,表紙を見ただけで本書を手にする方々も多そうですが,訳書では,振り向いた金髪の女性が若く,理知的な顔立ちの美女で,令嬢にふさわしいモデルが使われています。
15世紀イングランド,両親を失くしたエリザベス・ハットンは伯爵領を自分の才覚で巧みに経営し,領民たちからも絶大な信頼を得ています。広大な,そして肥沃な土地はイングランド中でも最大の豊かな領地の一つであり,領地を守るためにはどうしてもそれなりの領地と才覚をもった男性と結婚することが必要とされていました。すでにエリザベスの両親はラッセル家の長男をエリザベスの相手としていたのですが,長男が亡くなり,さらに次男のウィリアムも亡くなり,三男で末息子のジョンは,騎士修行でフランスに渡ったきりで行方不明という状況にあったのです。しかも婚約条項にはラッセル家の誰という名前が記されておらず,ラッセル家の男子とだけ記されているという,まことに不思議な婚約でした。結局は互いの家・財産を守るための結婚の約束だったわけです。そこに,イングランド王のいとこのバナスター子爵が割り込んできます。広大な領地を守るため,エリザベスの後見人として自分が名乗りを上げるというのですが,財産目当てに近づいてきたことは明白で,しかも,あわよくば,ラッセル家との婚約を解消させ,自分がエリザベスの夫になろうというもくろみも見え隠れします。ハットン家の家令は,子爵によって殺され,領地を守るべき軍隊も,周囲からの襲撃に備えるためと称して城から退けられてしまい,エリザベス自身も塔に幽閉されてしまいます。
しかし,エリザベスと付き添いの娘アンは,子爵が自分たちに会ったことがないことを生かして,衣装を取り換え,アンがエリザベスとして塔に閉じこもり,エリザベスがアンとして場内の様子を探るという,女性版「王子と乞食」作戦に出るのです。
そこにジョン・ラッセルと友人のフィリップがやってきます。エリザベスが子爵の手から逃れたいと考えているのかどうかを探りながら,自らの身分を隠して近づこうとするのですが,エリザベスが使用人と入れ替わっていることには気づかないまま,ジョンは使用人アンに惹かれていくと思っています。エリザベスとしても複雑な心境でしょう。しかし,独立心の強いエリザベスは男性でなければ領地の管理はできないとは思っていません。さらに,エリザベスが金髪であることは広く知られていることからできるだけフードをかぶり,髪を隠しています。ここからは,二人の間の駆け引き,そしてオルダーリー城を奪取するために,領民の血を流さないでほしいというアンとなったエリザベスの言葉を尊重しようとして,そのはざまで悩むジョンの心境など,登場人物がとても生き生きとその心情を明かしていくストーリー展開と人物描写は見事です。
大団円では,イングランド王がオルダーリー城を訪れ,エリザベスが上品な衣装で自らの身分を明かし,ジョンとの結婚を国王に訴えるシーン,そして,ジョンと子爵とエリザベス三者が損をしないように見事な裁きを見せる国王の利発さを,作者は見事に描き,さわやかで痛快な幕切れになっています。家と家の深い絆という中世の色合いは強いものの,独立心の旺盛なエリザベスの生き方,考え方は現代にも通じる見事な女性の生き方といえるでしょう。


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